アフリカ開発銀行

2022/03/30

共同寄稿:紛争を超えて、アフリカの食料安全保障計画

キーワード:アフリカ開発銀行

 

紛争を超えて、アフリカの食料安全保障計画 

海外における戦争が、アフリカの慢性的な食料輸入への依存を露呈しており、紛争、食料不安、気候変動の関連性に対処するための行動が活発化しています。

気候適応グローバルセンター(GCA)のパトリック・バークーエヘンCEO、ノルウェーのアンネ・ベアテ・トヴィンネレイム国際開発大臣、アフリカ開発銀行のアキンウミ・アデシナ総裁が共同で意見を発表しました。

戦争の犠牲者は、時に戦場から遠く離れた場所で発見されます。ロシアによるウクライナへの残忍な侵攻もそうです。ウクライナでの戦闘は計りしれない苦痛と破壊を与えていますが、同時にアフリカにも静かな破滅をもたらそうとしています。

紛争によって、食料の価格が高騰しています。アフリカ大陸ではすでに2億8,300万人が飢餓に瀕しています[1]。ウクライナにおける戦争は、アフリカの慢性的な食料輸入への依存をも露呈しています。小麦の輸入は、アフリカの対ロシア貿易40億ドルの約90%を占め、アフリカの対ウクライナ貿易45億ドルの約半分を占めています[2]。ロシアに対する制裁措置は、世界的な備蓄がすでに逼迫していた時期に、穀物の出荷を中断させました。このため、食料を輸入に頼っているアフリカ大陸では、現在、大規模な飢餓が発生する恐れがあります。

今こそ、アフリカの食料生産を飛躍的に向上させるべき時です。

実は、アフリカの食料危機は以前から進行していました。気候変動は、アフリカだけでなく、世界の多くの地域で、天候のパターンを乱し、農業にダメージを与えています。このことは、食料価格の高騰の要因となっており、過去50年間で最高値をつけました[3]。戦争を除けば、気候変動は世界の食料安全保障に対する最大の脅威といえるでしょう。温暖化する地球に農業が適応できるように、長期的で持続可能な解決策が早急に必要とされています。

そこで、アフリカ開発銀行とそのパートナーは、アフリカにおいて小麦やその他の作物の生産量を増やすために、10億ドルの資金を集めることを目指しています。その目標は、4,000万の農家が、熱に強い小麦の改良品種、米、大豆などの生産量を増やし、約2億人の人々に食料を供給できるよう支援することです。この取り組みの中心となるのは、気候変動の影響に耐性を高める新しい技術を農家に教えることです。飢餓に苦しむ一方、増大する人口を抱えるアフリカ大陸に食料を供給するために、より少ない資源でより多くの食料を生産する必要があります。一方で、不安定な天候パターン、洪水、干ばつ、病原菌の蔓延、生物多様性の喪失にも直面しています。

気候変動に対するアフリカ大陸の脆弱性を解消するために昨年開始されたアフリカ主導のイニシアチブ「アフリカ気候適応加速プログラム[4]」のおかげで、気候適応グローバルセンター(GCA)とその他の開発パートナーは、アフリカの食料の大部分を生産する小規模生産者に、気候変動に強い技術を提供しようとすでに取り組んでいます。

GCAは、アフリカの農家を気候変動から守るための投資は、農作物の損失、災害救援、道路の再建、農家の自立など、気候災害によってもたらされる被害の10分の1未満であると見積もっています。GCAによれば、サハラ以南のアフリカでは、こうした埋没コストは年間2,010億ドルと推定されていますが、これに対して、気候適応に必要な農業への投資は150億ドルと推定されています[5]

サハラ以南のアフリカの農家は、急速に変化する気候、栄養不良、人口増加という複合的な課題に直面しています。この課題に対応するためには、より強靭(レジリエント)で、生産性が高く、栄養価の高い作物が必要です。このような変化を、迅速かつ大規模に起こさなければなりません。アフリカでは、気候変動により、2030年までに国内総生産の15%が失われる可能性があります[6]。これは、10年後には更に1億人の人々が貧困に追いやられることを意味しています。

アフリカ大陸の豊かな生物多様性を保護することは、農業収穫量を増加し、乾燥した暑い気候に適した新しい作物品種を開発するための方策となります。ジーンバンクは、科学者がより優れた品種を開発するために利用できる何千もの重要な植物サンプルを保存していますが、長年にわたり資金不足と人員不足に悩まされており、植物収集と将来の食料安全保障が危機に瀕しています。

「BOLDプロジェクト[7]」は、ノルウェーと欧州連合が資金を拠出し、Crop Trustが運営するプロジェクトで、ナイジェリア、ザンビア、ケニア、エチオピア、ガーナのジーンバンクが国際的な運営基準を満たすよう資金及び技術支援を行い、長期にわたる安定的な収集とその利用を確保できるようにしています。

食料価格が高騰し、紛争によって供給が途絶える中、アフリカは壊滅的な食料危機を回避するために、可能な限り多くの気候変動に強い解決策を、迅速かつ大規模に活用できるようにする必要があります。農業のための気候適応策への投資は、アフリカ大陸の食料安全保障を確保する最も賢明で、最も費用対効果の高い方法です。時間を無駄にすることはできません。

 

原文(英語)はこちらをご参照ください。

 


[1] https://www.wfp.org/stories/wfp-saving-lives-preventing-famine

[2] https://www.bloombergquint.com/onweb/africa-can-wean-off-russia-wheat-with-1-billion-plan-afdb-says

[3] https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-09-15/priciest-food-since-1970s-is-a-big-challenge-for-governments

[4] https://gca.org/programs/africa-adaptation-acceleration-program/

[5] https://gca.org/wp-content/uploads/2021/10/GCA_State-and-Trends-in-Adaptation-2021-Africa_full-report_low-res.pdf

[6] https://gca.org/reports/state-and-trends-in-adaptation-report-2021/

[7] https://www.croptrust.org/project/bold/