『国際開発ジャーナル』2016年4月号「NEWS&TOPICS」で紹介-胎動始めるクリエイティブ産業 ―

胎動始めるクリエイティブ産業

雇用創出の新たな切り札となるか

 

人口が急速に増加するアフリカ諸国では、若者の雇用創出が大きな課題となっている。こうした中、近年、関心が高まりつつあるファッションデザインや建築などの「クリエイティブ産業」の可能性と課題、日本への期待について、アフリカ開発銀行金融セクター開発局第2課のロバート・マスンブコ課長代行に聞いた。

 

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ロバート・マスンブコ氏

 

若者の力生かせる分野

―近年、「クリエイティブ産業」への関心が高まっています。

 クリエイティブ産業とは、文化にまつわるさまざまな産業を包含する幅広い概念だ。書籍や映画、音楽、ファッション、建築、デザイン、広告など、知的財産権に関する多種多様な文化生産物がその対象となる。さらに、こうしたコンテンツを普及する出版業や放送業、博物館やアートギャラリーなどの運営、観光業も含まれる。

 クリエイティブ産業という概念が世の中に広まり始めたのは、1990年代の終わりごろだ。その後、開発途上国をはじめ世界的にこの産業が拡大し始めたことから、国連貿易開発会議(UNCTAD)なども注目するようになった。

 

―アフリカにとって、クリエイティブ産業はどのような意義があるのでしょうか。

 世界全体のクリエイティブ産業市場にアフリカでつくられた生産物が占める割合は、今のところ1%に満たない。しかし、同産業は今後、アフリカにとって非常に重要なものになると予想される。

 なぜなら、この産業は若者の力を生かせる格好の舞台だからだ。アフリカでは、30歳以下の若者が全人口の7割を占めている。彼らは創造的なエネルギーにあふれ、環境さえ整えば、デザインをはじめクリエイティブな方面でその力を大いに発揮するだろう。

 また、クリエイティブ産業は、多くの雇用を生み出す可能性を秘めている。例えばファッション産業について言うと、そのバリューチェーンには繊維や縫製など幅広い産業が含まれる。もし、アフリカの人間が自らの手でファッションデザインなどを手掛けるようになれば、それに伴い、関連する産業も発展を遂げる可能性が高い。そうなれば、より多くの雇用がアフリカで生み出されることになるだろう。

 世界的に有名なファッションブランド「KENZO」を立ち上げた高田賢三は、もともとパリでヨーロッパ流のファッションデザインを学んだが、その後、日本の伝統文化の要素を取り入れることによって、独自のファッションをつくり出すことに成功した。日本と同様、アフリカにも伝統的に培われてきた豊かな文化がある。アフリカは今後、クリエイティブ産業を通じて世界に新たな価値を提示できるはずだ。そして、それはアフリカにおける新たな産業の創造につながるだろう。

 

建築業で新たな兆し

―アフリカでは現在、クリエイティブ産業に関して、どのような動きが起きているのでしょうか。

 アフリカ開発銀行は昨年11月、南アフリカで開かれた世界最大級の起業家イベント「グローバル起業家週間」でクリエイティブ産業に関するパネルディスカッションを主催し、ユニークな取り組みをしている企業2社にパネリストとして参加してもらった。

 うち一社は、西アフリカを中心にファッションデザイナーをつなぐプラットフォームとして活動する「エティカ社」だ。同社は現在、約80人のファッションデザイナーに対して、互いのデザインの質を高め合うための研鑽の場を提供しているほか、作品のカタログをアパレル関係の大手企業に推薦したり、展示会を開催したりするなど、起業支援者(インキュベーター)の役割も果たしている。

 もう一社は、同じく西アフリカで活動している「コフィ&ディアバテ建築事務所」だ。同社は、最新の建築技術と現地の伝統的な知見の両方を生かし、現代のアフリカの都市課題に応えようとしている。例えば、コートジボワールの最大都市アビジャンは、20年前は10万人しか住んでいなかったが、現在は100万人近くに増え、電力不足が問題となっている。こうした中、同社は現地にある素材や伝統的な建築技術を生かし、風通しの良い涼しい建物をつくることによって、冷房に使う電力を減らし、CO2の削減にも貢献している。コートジボワールから始まった同社の活動は現在、セネガルやエチオピアにも広がっている。

 

日本企業との連携に期待

―先進的な動きが見られる一方、世界のクリエイティブ産業市場に占めるアフリカの割合がまだ1%に満たない背景には、どのような課題があるのでしょうか。

 特に深刻なのは、人材育成の問題だ。例えばコートジボワールには、全国で建築家が200人しかいない。建築を学べる学校が国内にはないからだ。クリエイティブ産業には高度な知見や技術が求められる分、教育は非常に重要だ。また、クリエイティブ産業に関わる企業が事業資金を得られる金融の仕組みも十分に整備されていない。さらに、知的財産権の保護が徹底しておらず、大量のコピー品が出回っていることも問題だ。

 こうした状況に対し、アフリカ開発銀行では主に三つの支援を行っている。第一に、クリエイティブ産業に関わる企業の活動を促進するため、税の優遇措置などの制度整備を各国政府に働き掛けている。第二に、同産業に関わる起業家に対し、ウェブサイトの立ち上げなどを含めた能力向上を支援している。そして第三に、ファイナンス支援も行っている。アフリカの金融機関は、知的財産権の問題について十分に理解していないためにクリエイティブ産業分野の起業家に資金を貸したがらないことが多い。こうした金融機関に対し、クリエイティブ産業への理解を促進することで、より多くの資金が同産業に流れるよう働き掛けているのだ。

 

―アフリカにおけるクリエイティブ産業の育成に関して、日本に期待する役割は。

 日本企業には、ぜひアフリカの企業と連携して、一緒にクリエイティブ産業に取り組んでほしい。優れた技術や知見を有する日本企業と仕事をすることによって、アフリカ企業自身も成長するだろうし、日本企業にとっても、アフリカ企業と組むことで、「アフリカの発展に貢献している」と自社をブランディングでき、社会的な意識が高い国内の顧客にもアピールできるだろう。

 日本政府は2005年以来、円借款を通したアフリカ開発銀行との協調融資や、無償資金協力などを通じてアフリカ諸国で基礎インフラの整備を進めている。こうした支援はクリエイティブ産業を振興する基盤になるため、今後もぜひ続けてほしい。さらに現在、クリエイティブ産業を直接支援するために、無償資金協力によってコートジボワールの若手起業家をトレーニングするプロジェクトを行っている。これは日本政府がこの分野での産業育成を重視している現れであり、われわれとしては今後の広がりに大変期待している。

 アフリカは「データのない大陸」だと言われている。日本企業の中には、さまざまなリスクを恐れてアフリカ進出をためらっていたり、アフリカの企業とどう連携すれば良いのか悩んでいるところも多いだろう。アフリカ開発銀行は、個別相談も含め、引き続き日本企業に対する情報提供を積極的に行っていく考えだ。

 

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昨年11月に開かれたクリエイティブ産業に関するパネルディスカッションで登壇したエティカ社創業者のカリン・フォルケ・タノー氏(中央)

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アフリカ開発銀行民間セクター局のコデージャ・ディアロ局長

 


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