『国際開発ジャーナル』2016年7月号掲載 連載  変わるアフリカ 変える日本企業

「質の高いインフラ」で差別化を

製造業のベースとなる農業支援を強化

 

今年8月下旬にケニアで開催される第6回アフリカ開発会議(TICAD Ⅵ)では、日本企業のさらなるアフリカ進出が期待される。今年1月に提言「アフリカの持続可能な成長に貢献するために~TICAD Ⅵに向けた経済界のアフリカ戦略」を発表した(一社)日本経済団体連合会(経団連)のサブサハラ地域委員会の委員長を務める双日(株)の加瀬豊代表取締役会長に聞いた。

 

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今年2月に南アを訪れた経団連ミッション。(右から)経団連サブサハラ地域委員会の加瀬委員長、南アのラマポーザ副大統領、経団連サブサハラ地域委員会の野路國夫委員長、南アのナレディ・パンドール科学技術相

 

見極め必要な可能性とリスク 

―アフリカは、人口増加に伴う市場の拡大に期待が寄せられる一方、多くのリスクも懸念されています。

 2013年に横浜で開かれたTICAD Ⅴでは、資源価格の高騰によるアフリカ経済の好調を背景に、「援助から投資へ」というスローガンが大きく打ち出された。

 しかし近年、資源価格の下落により成長が鈍化しているほか、テロや感染症の脅威が高まるなど、アフリカのビジネス環境は大きく変化した。また、中国依存度の高さや、法制度整備の遅れ、人件費などの高コスト体質といった課題も、依然として改善されていない。

 しかし、アフリカには豊富な天然資源と多大なインフラ需要がある。急速な人口増加により巨大な消費市場になる期待も高く、“地球最後のフロンティア”として大きな可能性を秘めていることは間違いない。その一方で、日本企業は2020年の東京オリンピックが終われば、今以上に海外市場に目を向けざるを得なくなるだろう。

 アフリカ諸国が直面する多様なリスクを踏まえると、日本政府の援助と企業の投資を車の両輪とし、バランス良くアフリカ開発に取り組むことが重要だ。そして、日本企業はアフリカの将来性や課題を冷静に見極め、目先のリスクに捉われず、中長期的な視野を持って取り組むべきだ。

 

地熱分野に強み生かせ

―今年1月に出された提言では、「日本の財政制約の下で重点的に取り組むべき国と分野を絞り込むべき」と指摘しています。

 アフリカの持続可能な成長に貢献するため、日本企業は主に二つの分野に取り組むべきだと考えている。

   第一に、長期的な展望から、電力や水などの「基幹インフラ整備」を集中的に進めるべきだ。日本はかつて、アジア諸国のインフラ整備に多額の円借款を供与してきた。それから30年以上の間に、アジア諸国は目覚ましい経済発展を遂げた。近年、アフリカでも資源依存型の経済からの脱却を目指して産業の多角化を進めている国は多いが、それを加速させるためにも基幹インフラの整備は重要だ。

 その上で日本企業は、他国との差別化を図るためにも「質の高いインフラ投資」に注力すべきだ。

 私が会長を務める双日では、こうした点を念頭に、ガーナ初の造水事業に参画している。昨年2月には首都アクラで海水淡水化プラントの商業運転を開始し、ガーナ水公社との25年間の売水契約の下で50万人分の水を供給しているところだ。

   また、電力については、まずアフリカが豊富に有する天然ガスを利用した発電が主流になるだろう。しかし、昨年12月に採択された「パリ協定」を踏まえ、アフリカでも近年、太陽光や風力、地熱など再生可能エネルギーが重要となってきている。環境とコスト競争力を考慮しつつ、地域特性に合わせた電源を整備することが重要だ。

 特に地熱発電については、ケニアには7,000メガワット、エチオピアには5,000メガワットのポテンシャルがあると言われており、ジブチでも調査が始まっている。

 他方、日本は世界中に地熱発電機器を輸出するなど、同分野において高い技術を有していると評価されており、日本企業ならではの貢献が期待できる。

   その一方で、資源に過度に依存してきた一部の国では、資源価格が下落した影響を受けて慢性的な経済停滞に陥ったり、為替レートが下落し国の財政が悪化することもしばしばあり、機材調達を含めインフラ整備の計画が遅延傾向にあることは否めない。

    インフラ投資には多額の資金が必要だ。アフリカに進出している他の国の場合、現地大使館や本国政府が自国企業の受注を支援したり、公的ファイナンスによるバックアップを行っている事例が多く見られる。日本も、公的ファイナンスを通した官民連携の強化が望まれる。

 第二に、農業分野の改善だ。アフリカは域内で十分な量の食料が生産できず、国内流通網も整備されていないため、食料を輸入に頼らざるを得ない。これが物価の上昇を引き起こし、人件費の高騰につながる要因の一つと見られている。食糧生産の余剰分を輸出に振り向けることさえできる東南アジアとは対照的だ。このため、東南アジア諸国と比較すると、アフリカの投資コストは決して安くない。

 競争力のある製造業を育てるためには、回り道であっても農業の強化が必須だ。域内の食料事情の改善は、貧困削減にもつながる。そのため、農業支援には日本の官民も大いに注目しているし、実際、アフリカ側からの要請も多い。

 日本政府は、TICAD Ⅴにおいて、2018年までにサブサハラの米生産を2,800万トンにまで増加するための支援策を打ち出した。日本企業も、アフリカの農作物の輸出拡大や、付加価値の高い食品加工業への参画、農業の大規模化による生産性の向上、病害虫対策への協力、フードバリューチェーンの構築など、多様な取り組みを模索していく必要がある。

    ただ、農業開発を進めるためには、アフリカ各国の政府が土地所有問題の解決に自ら取り組むことも必要だ。

 

アフリカは面で捉えるべき

―経団連のミッションでは今年2月、南アフリカ共和国とボツワナを訪問されていますね。

 現地を訪れる前は、資源価格の下落によって経済が相当落ち込み、活気がなくなっているのではないかと推測していた。しかし、実際には南アフリカの産業別GDPは金融18%、流通13%、通信が9%と産業の多角化が進んでおり、良い意味で驚いた。

   現地ではまず、南アの経済団体であるビジネス・リーダーシップ・サウスアフリカ(BLSA)とビジネスフォーラムを開催した。また、シリル・ラマポーザ副大統領からの推薦で、国内の中小企業団体や黒人企業評議会(BBC)とも意見を交換。その中で、金融や流通、通信などを中心に、高い実力を備えた企業群が台頭してきていることを実感した。日本企業がアフリカ市場を開拓する際にも、南アなどアフリカの地場企業とタイアップすることが、有効な手段の一つだと考えている。

 また、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)、南部アフリカ開発共同体(SADC)、東アフリカ共同体(EAC)などの地域共同体による共通市場の形成・深化に留意したい。われわれは南アを訪れた後、日本との国交樹立50周年を迎えたボツワナを訪問した。同国にはSADC本部が置かれているが、ステルゴメナ・ローレンス・タックスSADC事務局長からは「SADCは人口3億1,000万人、GDP7,000億ドルの巨大市場である。そして、南部アフリカ関税同盟(SACU)諸国は欧州連合(EU)との経済連携協定を発効させた」と紹介された。改めて、アフリカを面で捉える重要性を実感した。

 

―TICAD Ⅵに何を期待しますか。

 次回のTICAD Ⅵは、初めてアフリカ側で開催される。「アフリカのオーナーシップの強化」という点からも、この動きを歓迎したい。

    経団連は、1993年のTICAD Ⅰの準備段階から日本政府に協力してきた。TICAD VIについても、これまでと同様、さまざまな取り組みを行っている。

    TICAD Vでは、ケニアのモンバサ港やナイル架橋を含む北部回廊の整備、モザンビークのナカラ港の整備といったインフラ案件を含む10の戦略的マスタープランが打ち出された。TICAD VIではまず、こうした取り組みの現状を正しく評価し、PDCAサイクルを回していくことが必要だ。これらの支援策を着実に実行することが、アフリカ諸国との信頼関係の強化につながる。

    そして、今後ともビジネス環境の整備、インフラ整備、人材育成などを継続して支援していくためには、日本の戦略的重点国や重点分野を定めて、成果目標や工程表を含む個別具体的な戦略を立てることが重要だ。具体的には、治安の良い国・地域、ビジネス環境整備が進んでいる国が優先されると考えている。

 特に、TICAD Ⅴを機にスタートしたアフリカ域内の人材育成,例えば「産業人材育成センター」の設置や、日本への留学プログラム「ABEイニシアティブ」などの取り組みは、2017年に履行期限を迎える約束期間の後も継続すべきだ。政府や関係機関、企業は今まで以上に連携を強め、アフリカ発展に貢献していく必要がある。


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