『国際開発ジャーナル』2016年4月号掲載 連載  変わるアフリカ 変える日本企業

ナイジェリア即席麺市場に進出

インド系企業がパートナー

 

「サッポロ一番」などで有名な即席麺メーカー、サンヨー食品(株)は2013 年、ナイジェリアに進出し、アフリカの拠点を築いた。シンガポールの上場企業オラムとパートナーシップを組み、投資リスクを軽減しながら、市場シェアの拡大を狙っている。井田純一郎代表取締役社長に進出の経緯とアフリカ市場にかける思いを聞いた。

 

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サンヨー食品(株)

代表取締役社長 井田 純一郎 氏

 

 

先進国、新興国に布石着々

―アフリカ進出の背景は。

 食品会社にとって日本は市場が大きく、国民所得も高いので引き続き重要だが、人口は限られている。成長する市場を求めれば、海外に出る必要がある。

 サンヨー食品という社名は、太平洋、インド洋、大西洋という「三つの海」を意味しており、創業間もない時代から海外展開を視野に入れてきた。これまで英国のケロッグ社やインドネシア最大の即席麺メーカーとなったサリミ社に技術指導したほか、米国でも子会社を設立し技術を定着させてきた。

    新興国でまず着手したのは、麺の本場である中国だ。1995年に大連に合弁企業を現地に立ち上げたが、うまくいかず撤退した。しかし、その後、99年に台湾系の中国大手食品企業、康師傅(カンシーフー)に資本参加する機会を得て参入を果たした。また、ベトナムでは、子会社のエースコック(株)が進出して最大シェアを獲得した。同社はラオス、カンボジア、ミャンマーに進出する「横展開」を実施中だ。

 当社は、企業グループとしては年間約200億食を生産し、世界市場(2014年で1,027億食)で約2割のシェアを占める世界最大の勢力になった。こうした中で、そろそろ将来有望な市場であるアフリカ戦略も進める必要がある、と考えた。

 

2050年には人口4億人超

―なぜナイジェリアを最初の進出先に選んだのですか。

 食品会社にとって、重要なのは人口だ。現在10億人のアフリカの人口は2050年には倍増、中でもナイジェリアはアフリカ最大の1億7000万人を擁しており、50年には4億人を超えると予測される。

 世の中には多様な統計予測があるが、最も確実性が高いのは人口だ。戦争でも起きない限り、人口予測は当たる。人口が増える市場に出て行くのは当然な考えだ。

 ナイジェリアの即席麺の消費量は、世界ラーメン協会によると14年時点で年15億2,000万食に達しており、アフリカ最大だ。世界でも12位に位置する。現在はさらに拡大し、市場規模はすでに25億食を超えたと推定される。

 

―即席麺が伸びているのは、食生活の変化が原因ですか。

 日本も中国も、食生活はコメを主にした「粒食(つぶしょく)」から、麺類やパンなどより簡便に食べることができる「粉食(こなしょく)」に移行してきた。アフリカでも利便性の高い食品を求める変化が進んでいる。

 即席麺は「究極の加工食品」と言われる。安い価格で約400キロカロリーのエネルギーが取れ、常温で長期保存ができる。だから、現地に合った味付けをすれば全ての国で普及する面白い食品だ。

 ナイジェリアでも都市部では一日三食を食べる人もいる。乳幼児の離乳食にしている家庭もある。ナイジェリア消費食数は将来、日本並みの50億食にもなるだろう。

 

現地訪問が縁で提携に発展

―ナイジェリアに進出するにあたって、シンガポール企業と事業提携したきっかけは。

 2012年にアフリカ進出を決断して市場調査を開始した。その後、同年7月、当社海外事業部の福地利充部長が、駐日ナイジェリア大使館が主催した現地視察ツアーに参加し、最大都市ラゴスで製粉工場を見学した。それが、偶然にもシンガポール企業のオラム・インターナショナルが買収した製粉メーカーだった。これがきっかけになり、同社と資本提携の話を進めることにした。私は翌8月、シンガポールのオラム本社を訪問して、具体的な交渉を始めた。

 さらに翌9月に私がラゴスに出張すると、オラム幹部が、外国人が立ち入るにはリスクの高い青空市場視察の案内をしてくれた。私は、路地裏の露店で即席麺を調理し販売しているのを見つけて、強い興味を抱き食べてみた。後で聞いた話では、この様子を見たオラム幹部は、社長自らが積極的に試食をするという行動を取ったことに好印象を抱き、それが事業提携の判断につながったようだ。

 オラムは、インド系の実業家が1989年にナイジェリアで創業した世界有数の農産物商社だ。アフリカ25カ国を含む世界65カ国で約2万3,000人の従業員を擁し、農産物取引や加工食品の生産をしている。ネスレ、ユニリーバなどのグローバル企業とも取引がある。ナッツ類やカカオ、コメ、香辛料などのキープレーヤーでもある。シンガポール政府系の投資会社セマテックがオラムの筆頭株主になっており、国際的な信頼を勝ち得ている。

 オラムはナイジェリアを拠点にガーナ、マリ、ニジェール、マリなど西アフリカ7カ国に即席麺、ビスケット、キャンディー、飲料品、調味料などの生産販売事業を行っている。

 半年間の交渉の末に2013年5月、オラムとの間で即席麺の合弁生産事業に合意した。現在は、「チェリー」という現地ブランドを年間約2億食生産している。

 さらに14年には、オラムが新たに設立する西アフリカの食品事業持ち株会社の株式の25%を約1億8,750万米ドルで買うことが決まった。当初は即席麺だけの投資だったが、今は年商3億5千万ドルの総合食品事業に提携を拡大した。

 

強力パートナーでリスク軽減

―日本にとってアフリカは心理的に遠い国だと言われます。

 アフリカには距離的な遠さはある。だが、例えば中国は、距離的に近いが必ずしも進出しやすいわけではない。

 欧米など先進国は法制度が整っている。契約書はしっかりしており、いざとなれば裁判に訴えることもできるので、単独でも進出できる。だが、新興国では極端な政変や不安定な為替、天災リスクもある。アフリカも法制度は整いつつあるが、日本企業がのこのこ出て行くと、失敗する可能性はある。

 当社は新興国である中国もベトナムもパートナーと組んで成功した。アフリカではオラムという最良のパートナーを選んだ。インド系の人々はアフリカに長い関わりがあり、タミル系は西アフリカ、グジャラート系は東アフリカに多いなど幅広い人脈がある。

 オラムはインドのバンガロールに研究拠点を置いて、西アフリカの嗜好に合った味を研究しており、当社も協力している。現地のニーズに合った商品開発と積極的なマーケティングにより、西アフリカ最大の総合食品会社を目標にしている。またアフリカの他地域では、エチオピアやケニアなども人口増が期待できる有望な市場だ。将来的にはアフリカ全土での展開も視野に入れている。

 

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ナイジェリアでは「チェリー」というブランド名で販売

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現地での販売イベントの様子

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チェリーの袋を持つ子どもたち

 


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