『国際開発ジャーナル』2016年2月号掲載 連載 変わるアフリカ 変える日本企業
黎明期の外食市場へ参入
初期投資を抑え機動的に出店
資源ビジネスを中心に経済発展してきたアフリカでは、近年、中間所得層の増加を背景に、急速に消費市場が拡大している。今回は、外食分野で日本企業として初めてアフリカに進出したトリドール(株)の取り組みを紹介する。
中間所得層の拡大
アフリカでは2000年以降、平均約5%のGDP成長率が続き、消費者市場も急速に拡大している。アフリカ開発銀行が紹介しているユーロモニターの予測によると、2010年から20年の間に、各国の消費支出は、ケニアが230億ドルから370億ドルへ、ウガンダが150億ドルから300億ドルへ、ナイジェリアが1,150億ドルから1,670億ドルへと、それぞれ1.5~2倍近く伸びているという。
この背景にあるのは、人口増加と、貧困削減の確実な進展だ。アフリカの人口は、1980年の3.9億人から2010年には10.2億人へと、年平均2.6%の割合で増加しているが、その一方で、1日2~20ドルで暮らす中間所得層は同期間に年平均3.1%増えている。貧困削減が進んでいるため、中間所得層は全体の人口増より早いペースで増えているのだ。
貧困層はいまだ多く存在するものの、アフリカの援助関係者からは、「ケニアやナイジェリア、モロッコなどの大都市の消費者の行動は、先進国の都市の消費者に近付いてきている」という声も聞かれる。ショッピングモールにはルイ・ヴィトンやポールスミスなどの高級ブランドが店舗を出し、先進国の観光客やビジネスマンに加えて地元の家族連れが訪れる姿が日常の風景となりつつあるという。
先行者利益を狙う
勃興するアフリカ消費市場を巡って、さまざまな日本企業が動き始めている。東洋水産(株)と味の素(株)は、ナイジェリアで即席麺を販売する合弁会社「マルちゃん味の素ナイジェリア社」を設立し、16年度に事業を開始する予定だ。また、豊田通商(株)の子会社である仏商社CFAOは、15年末にコートジボワールの最大都市アビジャンに総面積2万平方メートル、モールやフードコートなどから成る大型ショッピングセンター「PlaYce」を開設している。
こうした中、特にアフリカの外食分野に日系企業として初めて参入したのが、セルフ方式の讃岐うどんチェーン「丸亀製麺」などを展開するトリドールだ。
1985年に兵庫県で創業した同社は、2011年にハワイに海外第1号店を出店したのを皮切りに、東南アジアや中国、ロシアなどに相次いで出店してきた。15年6月現在で、進出先はすでに27カ国・地域に及ぶが、そのうちの一つが、アフリカのケニアだ。同社は15年4月、 現地法人「TORIDOLL KENYA LTD」を設立するとともに、首都ナイロビに、照り焼きチキンとご飯や麺のセットを売るファストフード店「Teriyaki Japan」第1号店を開設した。
ケニアは現在、外食産業の黎明期と言える状態だ。東アフリカ地域の情報を発信するニュースサイト「Business Daily」によると、ケンタッキー・フライドチキン(KFC)は2011年にナイロビに第1号店を出したばかりで、マクドナルドも14年にようやくフランチャイズオーナー探しを始めたところだという。こうした同国にトリドールが進出を決めたのは、「先行者利益を狙いたい」(同社広報・PR課)という思惑があったためだ。
同社がアフリカに可能性を感じ始めたのは2013年の秋ごろからだ。わずか1年半で進出を決断し、出店に至るという素早い動きの背景にあるのが、「市場調査に時間とコストをかけるより、まず出店して現地の反応を見る」という同社独自の戦略である。
同社では、大量の調理を一手に行うセントラルキッチン(集中調理施設)を設けず、店舗ごとに製麺機などの調理機器を導入し、その場で材料から調理を行っている。これにより、顧客にできたてのおいしさを届けるとともに、初期投資を引き下げ、機動的に出店できるようにしているのだ。
現地の日常食目指す
ケニア人の胃袋を捉える上で同社が前面に押し出したのは、日本国内の市場で主軸としてきたうどんではなく、照り焼きチキンだった。ケニアでは、もともとチキンは祝日などに食べる「ごちそう」として食文化の中に根付いていた。同社は、そこに「照り焼き」という和のテイストを加え、現地の食文化の中への浸透を図りつつ、先行するKFCなどとの差別化も図っている。
日本食は一般的に海外では高級食と見られがちだが、同社が目指すのは、「照り焼きチキンを“現地の日常食”として根付かせること」だ。だからこそ、食材調達はテリヤキソースなど一部を除き、基本的に現地調達にこだわるといった工夫を凝らし、照り焼きチキンとライス、あるいは焼きそばのセットを490ksh(約637円)に抑えている。これは、KFCなど他のファストフード店の1食分のセットとほぼ同じ値段だという。
さらに、電力や水インフラが十分に整っておらず、停電や断水が日常茶飯事のアフリカ都市部では、発電設備などを自前で備えることが必須となる。
「Teriyaki Japan」第1号店は、ナイロビ駅近くの目抜き通りに立地する「コーナー・ハウス」内にある。このビルには、さまざまなレストランやブランド店、多くの企業のオフィスが入居しており、インフラ面の対応がしっかりしている。さらに、同ビルを活用する外国・現地ビジネスマンの外食需要も見込めるという、一石二鳥の立地である。
商品や価格、立地などの工夫が奏功し、第1号店が好評を博したことから、同社では15年11月、2号店をナイロビ市内の商業施設に出店した。さらに、東アフリカ地域には17年までに20店舗を展開することを目指しており、今後も積極的に出店を続ける予定だ。
他方、現地では外食産業が未成熟であるため、従業員教育の面で課題があるという。同店舗では、日本人社員に加えて現地採用のスタッフを配置しているが、「日本とは文化がまるで違うため、どのように社員教育をして日本流のサービスを教えるか、試行錯誤しているところ」だという。
拡大を続けるアフリカ中間所得層の外食需要への挑戦がどのような形で広がっていくのか、同社の戦略の行方が注目される。
<< BACK [2016年1月号] | NEXT [2016年3月号] >>
>> 連載「変わるアフリカ 変える日本企業」ページへ <<