『国際開発ジャーナル』2016年1月号掲載 連載  変わるアフリカ 変える日本企業

スマホでの「学び」広める

3年後の収益化目指す

 

IDJ_series_Jan_1

キャスタリア(株) 代表取締役社長 山脇 智志氏

 

学校設備などが十分に整っていないアフリカには、膨大な教育ニーズがある一方で、携帯電話やスマートフォンが急速に普及し、貧困層の多くが手にするようになった。2005年に設立されたITベンチャー企業、キャスタリア(株)は、こうした状況に新たなチャンスを見出し、モバイルラーニングの普及に向けた挑戦を続けている。山脇智志代表取締役社長に、現在の取り組みを聞いた。  

 

 

教育の可能性は開発途上国に

―アフリカに進出した理由は。

 アフリカは、資源をはじめ多様な分野において今後、日本の重要なパートナーになっていくからだ。もっとも、日本企業はアジアでは成功したが、アフリカでは必ずしもうまく行っていない。今までと違うやり方で取り組む必要がある。

 当社は現在、スマートフォンを通してさまざまな教育サービスを提供する「Goocus」を中心に世界への進出を図っている。そうした中で強く感じるのは、「教育の可能性を最も信じられるのは、開発途上国だ」ということだ。

 日本などの先進国では、一流大学を卒業しても仕事がない、という事態が起きている。しかし、アフリカなどの開発途上国では、勉強すれば良い大学に入れるし、良い仕事に就くことができる。もちろん教師も、教科書も、ノートも調達しないといけないが、デジタルコンテンツやオンラインの環境さえあれば、そこにイノベーションを起こすことができる。

 多様な通信手段がある日本と異なり、アフリカでは携帯電話の回線しか頼れない。だが、携帯電話に限って見れば、タンザニアなどでは技術水準も4Gまで向上しており、日本と差はない。支払いがプリペイド方式などの違いはあるが、スマホ上にシステムを構築して行く分には問題ない。

 

イタリアから北アフリカへ

―どんな国に進出していますか。

 2013~14年にセネガルにある私立大学、高等経営学院(ISM)においてモバイルラーニングの実証実験を行った。当社のツールの上に彼らの教育コンテンツを乗せ、どの人がどの程度の学習をどんなタイミングでやっているか、定量的な調査を行った。また、どこをどのように改善してほしいかなどをヒアリングする定性的な調査も実施した。

 15年からはケニアのストラスモア大学でも実証実験を行っている。今は同大学院の学生約150人が対象だが、ここでの成果を基に、いずれは東アフリカ共同体(EAC)に含まれるウガンダ、タンザニア、ルワンダにも、大学の通信教育として配信するビジネスに成長させたいと考えている。

 また、当社はイタリアのユニネッテュノ大学でも15年からGoocusの実証実験を始めた。同大学は日本の放送大学に相当するイタリアの通信制大学で、欧州から中東、北アフリカなど地中海地域を中心に6カ国語で講義を配信している。同大学ではもともとパソコンでのオンライン授業を行ってきたが、特に北アフリカなど、テロや紛争が今でも起きている地域ではパソコンを持っていない学生も多い。こうした地域においては、当社のサービスが必要な場面が多いだろう。

このほか、コートジボアールのタブレット専門メーカーからは現在、タブレットに入れる教育アプリの商談を受けている。

 一方で、難しい国もある。スーダンの場合、スマホに関税が200%かかる。エチオピアもネットの普及が弱い上、アムハラ語という独自の言語に対応するのが大変だ。

 

―市場開拓にあたっては、人脈も重要だと思います。

 アフリカ開発銀行アジア代表事務所からは、さまざまな助言を受けているほか、コートジボワールの最大都市アビジャンの本部にも出向き、情報交換をしている。アフリカの最新の教育事情を知りたいからだ。

 15年2月にドバイで開かれた国際会議「イノベーション・アラビア8」には、唯一の日本企業として参加した。セネガルでの取り組みを発表したところ好評で、サウジアラビアのキング・アブドゥルアジス大学の職員が「貴社の製品を使いたい」と言ってくれた。

 各国の共通事情として、パソコン用eラーニングの仕組みはあっても、携帯電話用がないという問題がある。スマホ用アプリを作るのは難しく、エンジニアも少ないので1,000万円程度かかると思われている。だから「当社はイニシャルコストなど不要で、すぐできる」と言うと、飛び付いてくれる。

 

3年後の収益化を

―キャスタリアの特長は。

当社は東京と長野にオフィスがあり、計14人のスタッフが働いているが、大半がバイリンガルだ。ケニア生まれでフィリピン、バングラデシュで育ち、日本の大学を出たというスタッフもいる。

 当社の特長は、究極的な自立学習の援助だ。学習は「いつでも、どこでもやる」のが大切だが、人間は三日坊主になりがちなものだ。それにどのように対処していくか。学習が「非日常」である人々に対し、日常的に使うスマホを通して学習を「日常」にすることが当社の方程式だ。

今、企業が社員教育にe ラーニングを採用する時代になったが、アパレル業種や飲食店の店舗ではパソコンを持っていない人や、使えない人が多いが、若い世代は多くがスマホでLineを使う。こうした人々にスマホを端末として使える最高の学習を提供したい。

 今は収益のほぼ100%を日本国内の法人向け社員教育のサービス事業で稼いでいる。顧客の要望に合わせてアプリを開発・供給する受託生産の仕事も多い。そして国内で稼いだ資金を海外に投資しているが、アフリカでは3年後をめどに収益を上げたいと考えている。

 なおアフリカでは、人々は「援助慣れ」している側面があり、「無料でやってほしい」と言われることが多い。こうした要求は容赦なく断っている。「私たちはビジネスを一緒にしたい。援助は『原則』やらない」と明確にする必要がある。

 経済学者のエルンスト・シューマッハーは開発途上国が発展する三条件として、「教育、組織、規律」を挙げた。規律がないと発展しないのだ。それを頭に入れながら、世界における学びのスタンダードになるシステムを開発し、提供していきたい。

 

——中東の難民問題にも関心を抱いているそうですね。

    ノルウェー政府の開発機関NORADがシリア難民向けにスマホを使ったeラーニングをする事業に参加することを考えており、国際入札の準備をしている。

 シリア国内では長引く内戦で就学率は50%にまで低下し、激戦地のアレッポではわずか6%だと聞いている。学校から先生がいなくなってしまったのだ。シリア難民のうち約300万人は子どもたちで、トラウマとストレスで学習に影響が出ている。ノルウェー政府は難民を5,000人程度受け入れる方針だが、自国内に学校をつくったら定住を認めることになるため、教育機会を提供するのが難しい。だが、難民の多くがスマホを持っているので、当社のサービスを使って、アラビア語で教育機会を提供できるのではないかと考えている。また、クラウドファンディングで奨学金を出すことも考えられるが、そうした事業に日本企業が参加するのも面白いのではないか。

 

 

 

IDJ_series_Jan_2

ケニア・ストラスモア大学での実証実験

IDJ_series_Jan_3

ストラスモア大学の現地パートナーたちと一緒に

 


<< BACK [2015年12月号]  | NEXT  [2016年2月号] >> 

>> 連載「変わるアフリカ 変える日本企業」ページへ <<