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2015/05/21

東アフリカにおけるプロ人材育成の試み ~ウガンダ人材育成カンファレンスの報告~

キーワード:アフリカ各国の動向, アフリカビジネス環境関連情報, 現地からのレポート(寄稿)等, ウガンダ共和国, 上記以外の情報提供団体・企業等

 

東アフリカにおけるプロ人材育成の試み

~ウガンダ人材育成カンファレンスの報告~

2015年5月20日

文・写真:WBPF Training 代表 伊藤淳, アドバイザリー 赤石拓也

 

はじめに

 5月6日ウガンダの首都カンパラにて、我々WBPFは現地企業の人事エグゼクティブ・トップマネジメントを対象に、現地の人材育成をテーマにした“Staff Development Conference Uganda”をUNCCI(Uganda National Chamber of Commerce and Industry:ウガンダ商工会議所)と共同で開催した。当カンファレンスでは、参加した30を超える企業・組織から挙げられた特に人材育成に関する課題とその取り組みについて活発な議論が行われた。

 本記事では、当該議論内容及び、当社が約1年、百数十社に渡り行ってきた現地企業へのインタビュー調査を踏まえて、当地における人材マネジメントのポイントについて述べたい。

 

ウガンダにおける人事課題とは?

 さて日本の皆さまはウガンダにおける人事課題と聞いて、具体的にどのような内容をイメージされるだろうか?当日参加者から共有された課題は大きく2つに集約される。一つは人材の低いパフォーマンス、もう一つは優秀な人材の高い離職率である。言葉にしてみれば、“当たり前のこと”と思われたかもしれない。しかし、これらの課題は他新興国(場合によっては他アフリカ諸国)と比べて、より深刻である。

 まず、人材のパフォーマンス課題について一言でいえば、“アカデミックな知識に偏重しており、実用的な(結果を出せる / コミットできる)プロ人材がいない”ということになる。ウガンダでも他アフリカ諸国の例に漏れず、著しい経済発展の中で、優秀なビジネスパーソンのニーズは急増している。一方で、企業・組織のコアポジションを担えるウガンダネイティブの人材は極めて少なく、外国人が就いているケースが多い。欧米人・中国人・インド人が就いているケースは他諸国でも見られるが、ウガンダではケニア人・ナイジェリア人・エチオピア人等、周辺諸国の優秀人材の“草刈り場”となってしまっている。現地企業も優秀なローカル人材の活用を望んではいるものの、国内労働市場では得られないのが現状である。国内トップ大学の就職率すら20%を切っていることが、人材の欠乏状況の深刻さを示唆している(ちなみに日本のトップ大学群の就職率は概ね80%前後)

 

ウガンダ首都のカンパラ市街地の様子

写真:ウガンダ首都のカンパラ市街地の様子

 

 それでは、この国内人材と、周辺諸国のプロ人材の違いとは何だろうか?仮に能力を職業的専門性(*例:アカウンティング、エンジニアリング、IT等)と、社会人基礎力(*プロフェッショナルマインドセット、ヒューマンスキル等)に分類したならば、どちらが(あるいは両方が)どの程度不足しているのだろうか。私たちWBPFが現地でインタビューを行い、サービスの提供をしてきた経験から判断すれば、圧倒的に後者を保持するローカル人材はほぼ皆無と言っていい程である。現地でローカル人材と協働した経験がある方はすぐにイメージが湧くかと思うが、とにかく“(少なくとも日本人・欧米人にとっては)当たり前のことが、当たり前にできない”のだ。例えば、業務の期限を守らない程度ならまだ可愛いもので、『上司がその期限をきちんとリマインドしなかった場合、リマインドをしない上司に責任があるとクレームをつける』、あるいは『出来ない事への言い訳や批判はするが、解決策を求めると出てこないだけではなく、適当な嘘をついてその場を取り繕って逃げようとする。その場で発した発言には責任感を持っていないので後で追及しても知らん顔をされる/逆切れする』といった具合である。

 加えて言えば、雇用側である企業も当該問題に十分対処しているとは言えない現状がある。本カンファレンス内で参加企業に聞いてみたところ、およそ8割程度の企業は上記の問題に真摯に取り組んではおらず、被雇用者のせいにして対応を諦めているところが多い。また、対処を検討している会社もあるが、内部に対処できる人材もおらず、外部にも対応できる人材育成会社等が(ほぼ)存在しないため、“OJT”という名目で現場のスーパーバイザーに丸投げをしているケースが散見される。現場マネジャー自身も社会人基礎力にかけているケースが多い上、“部下の育成をすると、自分の地位が脅かされる”と考える人も多く、結果として育成は行われないケースが散見される。例えば、部下に新しい業務や情報を共有する事は上司としては当然の行動であるが、部下に自分の知見・経験を伝えることを怖がり、場合によっては部下からコミッションや見返りを得ようとする人もいるくらいである。

 2つ目の大きな問題は、離職率の高さである。一般的に新興国における離職率が高いことは周知の事実であるが、ウガンダは新興国の中でもさらに高い水準に見受けられる。例えば中国も高い離職率で知られるが一般的には16%前後(HRoot調べ)である。ウガンダでは信頼性の高い統計データはないが20%を下ることは少なく、業界によっては1年で50%を超えているところもある。リテンションの問題は単純に採用(及び育成)コストが上昇すること以上に、この国の雇用事情、ひいては経済に深刻な影響をもたらしている。

 高い離職率によって、“どうせすぐ辞めるのだから”と、企業側も人材育成投資に相当程度消極的にならざるを得ない。中には、人材育成を諦めてしまい、直接的な表現をすれば“消耗品”のように社員を扱う企業すら少なくない。したがって育成自体が放棄され、ウガンダネイティブのマネジャーどころか、一人前のプレーヤーさえ育たず、いつまでたっても“外国人にポジションを奪われたまま”なのである。

 つまり、ウガンダにおける人事課題は、離職率の高さとローカル人材の相対的なパフォーマンスの低さが入れ子になって、プロフェッショナル人材を枯渇させていることとまとめることができる。

 

Staff Development Conference Ugandaの様子

写真:Staff Development Conference Ugandaの様子

 

解決へのアプローチ

 では、このような状況から抜け出すために、一企業としてはどこから始めればいいのだろうか。当日のカンファレンスでは、我々WBPFの経験を土台に、カンファレンス参加者間での経験の共有や施策をディスカッションして頂いた。中には、非常に興味深い例も紹介された。

 一方で、現地でのインタビューや、カンファレンス当日の参加者とのディスカッションを通じて感じたのは、まずは経営者・人事責任者自体の“諦めモード”からのマインドチェンジが必須だということである。ここで人事だけではなく、“経営者”も含めているところにもご注目頂きたい。実は、人材育成に大きな課題を感じ、積極的に対応しようとする会社も少数ながら存在するのである。しかしながらいくら人事責任者が働きかけようとも、より上位のCEOや取締役クラスの理解が得られずに苦労している。『上位の経営陣達は、いまだにスタッフ層やミドル層の人材への不満を漏らすだけで組織として人材育成の仕組みを導入する事の意義を分かってもらえない。従業員の扱い方や評価制度など、まずは自分たちの認識を改める必要があるのに、自分達の事は棚に上げて、部下の不平ばかりを漏らしている。人事としても何とかしたいが、トップダウンの弊社で経営陣を説得するのは至難の業だ。』と半ば諦めてしまっている人事部長も多い。

 もう一つ、例を挙げよう。現地のトップ企業の一つである、従業員1,000人を超えるコングロマリット企業は、リテンション・ローカル人材の相対的なパフォーマンスの低さの両方に悩みを抱えていた。挙句、ウガンダネイティブの創業者・経営陣すら“ローカル人材の育成はあきらめた”との声も聞かれる状況である。その理由を聞くと、“人はお金で離職する。給料を上げるわけにもいかないし、仕方がない”とのことである。本当にそうなのだろうか疑問に思った我々が社内外の状況を調べてみると、実は“お金以外”の要因が大きくリテンションに影響していることがわかった。それは上司・部下間のコミュニケーションの欠如である。同社に8年勤めているマーケティングマネジャーに対してすら中長期のキャリアプランや方向性を一切示さず、当人からは“ここにいても先が見えない。この先会社でどう扱われるのか分からない。”との声があった。金銭的な報酬(だけ)ではなく“ここで働く意味付け(work engagement)”が必要なのである。

 ここで、この点に注目した興味深い事例をウガンダ現地で16年以上経営しているホテルグループから一つ紹介したい。世界の例に漏れずウガンダにおいてもホスピタリティ業界の離職率は相対的に高い。離職率の高さに悩む某ホテルは様々な打ち手を講じて優秀な人材のリテンションを図っている。例えば、社内採用を上手く活用することで、相対的にはかなり低い水準に抑えることに成功している。(ちなみに、ウガンダは旧宗主国であるイギリスの文化を受けており、日本のような一社に長く勤める文化ではなく、ポジション毎に会社を転々とするのが一般的である。)最も印象的なケースでは、アスカリ(ガードマン)として採用された社員が、制度を活用することで調達部門に異動しマネジャーまで昇格した後、会社に嘆願し、英国へのMBA留学を経て復職。現在は同社のマーケティングディレクターとして働いている。ポイントは“制度”の有無そのものではなく、実際に運用されている事、そしてその事実を社員全員が認知しており、活用が奨励されている事である。

 また、同社では施設内だけでなく、施設を超えたスタッフ間のコミュニケーションを活性化させるために様々な実験を行っている。例えば、今年の4月から、オフィスワーカー・現場マネジャー・スタッフに対しwhat’s app(日本のLINEのようなもの)のグループチャットを導入し、業務/プライベートを問わず従業員間の縦・横・ナナメのコミュニケーションを奨励している。先のアスカリの社内出世のような事例も、社内広報を通じて従業員に周知することで、誰しもがその適性や力量に応じてキャリアの展望を持てることを強くメッセージングしている。結果として、離職率を改善するだけにとどまらず、個人・組織のパフォーマンス向上にもつながっている。実際、同社のホテルのサービスレベルは相対的に高い水準に保たれており、口コミサイト等での評判も上々である。お金を理由に“諦めてしまった”企業とは、正反対の思想で取り組んでいることがわかる好例である。

 最後に、一つ、パフォーマンスの改善に寄与した弊社事例を紹介したい。

 ある製造業の倉庫管理責任者の事例である。研修前のCEO・工場長へのヒアリングでは、『真面目で言われたことをこなすが、自主的に取り組む姿勢に課題もあるし、コミュニケーションに大きな課題がある。結果として、原材料の在庫の欠品だけでなく、製造機械のスペアパーツの在庫がなく工場のラインを何日も止めなければならない事があった。』と必ずしも高い評価を受けているわけではなかった。

 研修開始当初は、プロとして当事者意識を持つ事にピンと来ていなかった彼だが、ある日の研修の終わりに『俺は今までスタッフとして言われたことをやって給与を貰う事が仕事だと思っていた。今日のクラスの中で、ビジネスパートナーとして働く必要があると思った。今までは工場長の言われたとおりに作業をこなす事が仕事だと思ったが、パートナー(対等)なんだ。』と興奮気味で話しかけてきた。

 翌日、彼は、コミュニケーション齟齬の根本原因はスケジュールや タスクが管理されていないことだと気づき、自身だけではなく、彼のもとで働く倉庫内スタッフ20名にも、作業計画やTODO管理を導入した。

 さらに、驚きは続く。我々WBPFでは6-7週間のプログラム終了後に、希望者には2-3か月の間、月に2回、1回1時間程度の個別のフォローアップメンタリングを提供している。初回のメンタリングでは、受講者自身に3か月後の目標設定をさせるのだが、彼は20分以上悩んだ末、このように言う。『コミュニケーションの向上で以前よりも欠品は少なくなった。しかし、なくなったわけではない。この原因はコミュニケーション齟齬以上に、調達・倉庫のシステム(仕組み)に改善の必要があると思う。なので、今後3か月で、①現状に沿ったシステム(仕組み)の改善と導入、②導入する新しいシステムを部署内で使いこなせるよう、部下への育成を行いたい。』と言った。

 3か月後、彼は有言実行をする。その後数か月の間、欠品は一つも発生していないという。また、3か月後の、CEOへの成果発表の中で、『これからは、この成功事例を他部署にも展開していきたい。協力してください。』とまで言い放った。CEOからは『彼は弊社のドリームチームの一員だよ』というありがたい言葉を頂いた。

 

3. CEOへの成果発表後の集合写真

 写真:CEOへの成果発表後の集合写真

 

 当社WBPFでは、社会人としてのプロ意識・社会人基礎力の育成を行うトレーニングの提供に加え、経営者・マネジャー・スタッフが長期で会社に携わり力を発揮できるような環境づくりのサポートを行っている。まずはウガンダでスタートしたが、今後は東アフリカ諸国・他アフリカ諸国への展開も目指している。

 弊社の理念である、『アフリカの未来を担うプロを育てよう』に貢献できればと思っている。

 

 

 

<WBPF Training>

2014年ウガンダの首都カンパラにて創業。代表兼創業者は伊藤 淳氏。

ウガンダ現地の企業、団体、政府、機関に向けたビジネス研修プログラムを提供する。特定の分野のスキルや知識ではなく、プロフェッショナルとして働くためのプロ意識・当事者意識、社会人基礎力をアクションラーニングの手法をベースにした研修プログラムを提供している。

Web:www.wbpftraining.com

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