『国際開発ジャーナル』2016年5月号掲載 連載  変わるアフリカ 変える日本企業

農村に電子マネー導入

エネルギーの「地産地消」進める

 

中南米原産の落葉低木であるヤトロファは、荒地でもよく育ち、果実に油分を多く含むことから、バイオ燃料の原料として活用されている。日本植物燃料(株)は、モザンビークの農村でヤトロファによるエネルギーの「地産地消」を進めるほか、電子マネーによる金融事業にも取り組んでいる。合田真代表取締役に、同社のユニークなアフリカ事業について聞いた。

 

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日本植物燃料(株) 代表取締役 合田 真氏

 

現地で40人を雇用

―モザンビーク進出のきっかけは。

 私は2000年に日本植物燃料を設立し、マレーシアからパーム油由来のバイオ燃料を輸入する事業を始めた。また、スリランカやフィリピンで、ヤトロファの試験栽培や品種改良にも取り組んだ。

 その後、08年に(公財)地球環境センター(GEC)がモザンビークで実施したバイオディーゼル燃料に関する事業化調査に協力したことが、同国に関わるきっかけとなった。09年からは、日本の農林水産省の助成を得て同国で野菜栽培に取り組んだほか、11年からは国際協力機構(JICA)が同国で実施した地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)によるバイオ燃料の研究プロジェクトに参加するなど、政府関係の事業に立て続けに関わる機会を得た。

 その後、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの助成を受け、12~13年に北部のカーボデルガード州でヤトロファの試験栽培を行った。この事業では、まず当社の社員が同州の村を回り、村の代表者の協力を得て、ヤトロファの試験栽培に参加してくれる農家を募った。彼らには、ヤトロファの苗木を家の垣根に植えてもらい、実ができたら当社が買い取ってバイオ燃料に加工するという仕組みだ。

 この事業はNEDOの助成が終了した後も続いており、現在は約7,000人の農家が参加するまでになった。製造しているバイオ燃料は年間約100キロリットルだ。

 製造したバイオ燃料は、当初、都市部に売る予定だったが、モザンビークは物流コストが高いため、収益を上げることが難しかった。しかし、現地の農家と接する中で、主食であるトウモロコシを製粉する際に用いる製粉機の燃料のニーズが大きいことが分かった。物流インフラが十分整備されていない同国では、都市部より地方の方が燃料費は高く、「地産地消」の方が、事業モデルは持続可能になる。そこでわれわれは、現地で運営するキオスクなどを通じてバイオ燃料を地元の農家に販売することにした。今後は、地元の携帯電話会社などの電力需要に対してもアプローチしていきたいと考えている。

 当社は現地で約40人の職員を雇っているが、彼らが食べていけるだけの収益はすでに上がっており、今後もこの事業モデルを拡大していく方針だ。しかし、私を含め8人いる日本人社員の給与を賄うことを考えると、より収益性の高い事業にも取り組む必要がある。そこでわれわれは、油を絞った後の実を有機肥料に加工する事業に加え、電子マネーを活用した金融事業も進めているところだ。

 

農村金融の可能性

―電子マネー事業を始めた経緯と現状を教えてください。

    電子マネー事業は、当社が運営するキオスクで発生する現金ロスをどうにかしたい、という思いから始まった。キオスクはへき地にあるため、運営は現地職員に任せていたが、彼らは計算が苦手で、2週間に一度棚卸しをしてみると、商品の販売額と実際に店に残っている金額に30%近く誤差が出ることもあった。

 そこで、こうした状況を改善するため、キオスクに販売時点情報管理(POS)システムを組み込んだタブレットを導入するとともに、近隣住民に電子マネー機能を付加したICカードを配り、買い物に使ってもらうようにした結果、誤差は1%以下に減った。

 さらに、この取り組みを続ける中で、ICカードを買い物時の支払いだけでなく預金手段として活用する住民がいることに気付いた。

 モザンビークのほとんどの農村には銀行がないため、農家は年に一度、収穫期にまとまって入る収入も家の近くに穴を掘って埋めるぐらいしか管理方法がなかった。しかし、ICカードにお金を入れておけば、安全にお金を保管することができるのだ。 

 こうした活用方法を見ているうちに、これを発展させればマイクロファイナンスなどの資金貸付サービスを展開できるのではないかと感じた。ICカードやタブレットにはお金の使途の記録が残るため、利用者が無駄遣いをする傾向がある人かどうか、貸付の際の信用確認に使うことができる。

 そこで当社は、13年11月から日本電気(株)と協力し、現地で電子マネーの運用データの収集を開始した。さらに現在は、電子マネー利用者に本格的に預金・貸付サービスを提供できるよう、銀行免許を申請するなど準備を進めているところだ。

 現在、電子マネーの利用者は500人程度だが、今年中に自社のキオスク以外にもタブレットを置いてもらい、より広い地域で利用できるようにしたい。

 さらに今後は、モザンビーク全土で携帯電話サービスを提供するモビテル社とも連携し、携帯電話を使った農村地域における送金サービスの構築も進めていきたいと考えている。

 なお、当社は昨年11月、国連食糧農業機関(FAO)から、電子マネーを使った農民への資金支援プロジェクトを受託した。これは、対象となる9,000人ほどの農民にあらかじめお金を入れたICカードを配り、各地の農業資材店で必要な資材を購入できるようにするものだ。こちらでも、自社で取り組んでいる事業と相乗効果を図っていきたいと考えている。

 

勝負は今しかない

 近年は先進国、開発途上国を問わず、ICTを活用し新たな金融サービスを生み出す「フィンテック」と呼ばれる動きが盛んだ。米国のアップル社が決済サービス「アップルペイ」を開発するなど、携帯会社などが積極的に金融業界に参入している。

  アフリカでも、例えばケニアの通信会社サファリコムによる携帯電話を使った送金・決済サービス「M-Pesa」は有名だ。またナイジェリアでは、クレジット機能を付加した国民IDカードを発行している。しかし、モザンビークの農村部のような無電化地域では、フィンテックの動向はまだ活発とは言えない。

  現在、アフリカでは各社がさまざまな金融サービスの開発に向けしのぎを削っている。あと10年もすれば、農村部に適した金融の仕組みもできてくるだろうが、それから取り組みを始めたのでは遅すぎる。農村部の金融ニーズを獲得するために勝負できるタイミングは、今しかない。

  なお、アフリカ進出に向けた日本政府の支援については、事業化調査に関しては充実してきたが、いざ実施段階になると、活用できるスキームはJICAの海外投融資などに限られている。  他方、当社に資金を出しているアフリカ起業チャレンジファンド(AECF)は、英国、スウェーデン、デンマークなどの援助機関が共同で設立した、いわゆる社会インパクト投資ファンドで、企業の事業意欲を活用して社会貢献を広める手法を取り成功を収めている。  日本も、政府間での政府開発援助(ODA)だけでなく、社会インパクト投資を活性化させ、企業の進出促進と社会貢献を同時に進めていく視点が求められる時期に来ていると思う。

 

 アフリカ開発銀行金融セクター開発局の沼澤和宏氏は、「アフリカでは現在、約6億人が無電化地域で暮らしている」と指摘した上で、「積極的な対策がなければ、今後の人口増加に伴い、無電化人口はこれからも増え続ける可能性がある」と予測する。こうした中、アフリカでは多数のエネルギー関連プロジェクトに取り組んでいるが、人口密度が低いアフリカでは、地域によっては送電網の整備などに困難があるのも事実だ。

 こうした課題に対し、日本植物燃料は、「地産地消」のエネルギー需給の仕組みを作り出すとともに、最近では農村に電子マネーを導入するという新たな挑戦を始めた。合田社長は「あくまで顧客のニーズに対応しているだけ」と控えめだが、同社のように、既存の事業領域に捉われず、柔軟な発想で顧客のニーズに適したサービスを構築することこそ、まだ黎明期にあるアフリカビジネスのポイントだと言えよう。

 

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キオスクで、ICカードを使った決済ができる電子マネーシステムを構築

 

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バイオ燃料を使って、無電化地域を電化

 


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