『国際開発ジャーナル』2015年11月号掲載 連載  変わるアフリカ 変える日本企業

10年後見据えたブランド形成

インド人ネットワークも活用

 

総合塗料メーカーとして、グローバルに事業を展開する関西ペイント(株)。2011年に南アフリカの有力企業を買収して以降、急速にアフリカ市場の開拓を進め、14年度の売上高は400億円弱、グループ売上高の1割を占めるまでとなっている。南ア企業の買収を主導し、13年からは代表取締役社長としてグローバル戦略を指揮する石野博氏に聞いた。 

 

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関西ペイント(株) 代表取締役社長 石野 博氏

 

 

“南アの宝石”と説得 

―アフリカ進出のきっかけは。 

当社は戦後、まず船舶に使う塗料などから海外で事業を始めた。1990年代以降は日系自動車メーカーの海外進出と併せ、自動車塗料の分野で海外展開を進めてきた。その後、91年の冷戦終結を機に、中国などが市場経済に本格的に参入するようになり、新興国の重要性が増してきた。特に2008年のリーマンショック以降は、それが顕著となっている。

 世界の塗料市場を見ると、自動車用塗料が占めているのは5~6%に過ぎない。それも、需要のほとんどが先進国に偏っている。その一方で、新興国では住宅や橋梁などのインフラに使う汎用塗料に膨大なニーズがある。ここにアプローチしなければ、世界で勝ち残れないという危機感を抱いた。

 自動車用塗料は、品質や機能性が重視される傾向にあるため、後発で参入した地域でも、技術力があればシェアをひっくり返すことはできる。しかし、汎用塗料は品質や機能性での差別化が難しい分、どれだけその地域の消費者に名前を知られるか、ブランド力がカギとなる。そのため、いかに早く市場を押さえるかが重要だ。

 新興国でも、南米諸国などはすでに欧米企業が席巻している。そこで、まだ特定のブランドが確立されていないアフリカを目指すべきだと思った。ちょうどそう考えていた2010年のはじめに、南アフリカのフリーワールド・コーティングスが売却対象となっていることを知った。まさに、千載一遇のチャンスだった。そこで、同年5月には現地に乗り込み、現地経営陣の説得を始めた。

 

―日本では「アフリカ企業は不正会計などがあり信用できない」というイメージがあります。

 買収において肝となるのが、会社の信頼性だ。調査の結果、同社は財務体制もしっかりし、南ア国内で半分のシェアを取っているほか、他の南部アフリカ12カ国でも事業展開していると分かった。

 また、当社はインドで30年以上の事業実績があり、グループの売り上げの2割を稼いでいるが、アフリカには多くのインド人が進出している。そこで、インド人のネットワークを生かし、情報収集を行った。当社は中東でも事業を行っており、ドバイで得られる情報も大いに役だった。

 実は、私が現地に行った時点では、当時の同社の経営者があるファンドと組んでMBO(経営陣による株式買い取り)することが決まりかけていた。しかし私は、「ファンドが買収したら、事業の合理化だけして数年後に転売するだろう。しかし、この会社は南アフリカの“宝石”だ。われわれは、この会社の力を高め、全アフリカをカバーする王冠をつくる。その中心にこの宝石を置く」と説得した。すると、その後の株主総会でMBOの計画が一転し、当社の買収に傾いたという経緯がある。

 

信頼が重要

―カンサイ・プラスコン・アフリカ(旧フリーワールド・コーティングス)を含め、各地の子会社とはどのように連携していますか。

 汎用塗料は、地域の特性を踏まえて売り方や物流などを工夫することが重要だ。当社では、世界を7極に分けて、それぞれの極にベースとなる拠点を置き、周辺国の需要を開拓していくという手法を取っている。各地域の事業は、基本的に現地の社員に任せている。

 その上で、本社で年1~2回程度、各極の担当者が集まる会議を実施しているほか、テレビ会議を適宜開き、各地域の経営資源をいかにグローバルに最適な形で活用できるか議論するとともに、各地域のベストプラクティスを学び合っている。

 例えば、蚊よけ加工を施した塗料を最近、マレーシアで販売した。これは、もともと南アフリカでマラリア対策に売ろうとしていたものだが、マレーシアでも、蚊が媒介する感染症のデング熱が流行っていることが分かった。そこで、デング熱用に改良したものを販売したところ、良く売れている。

  なお、各極の担当者を集めての会議は、できるだけ日本でやるようにしている。なぜなら、英語力不足もあり、グローバルな情報共有という観点では、日本人社員が一番遅れているからだ。そのため、日本人のマネジャークラスには、できるだけ自身が担当する部門以外の会議にも参加させるようにしている。こうした会議の中では、さまざまな国籍の人々の、色んな英語が飛び交うが、「このくらいのレベルの英語でいいのか」と感じた社員が、積極的に会議に参加するようになるなど、日本人社員の国際化にも役立っている。

 

―買収以降、アフリカではどのように市場開拓を進めていますか。

 カンサイ・プラスコンの社員に、アフリカ全土を調査させてきたが、4年間を掛けてようやく南部アフリカ以外でも事業パートナーとなりうる相手を見つけられそうだ。アフリカで事業を10年スパンで進めることを考えると、少なくともそのくらいの期間はしっかりと事業を継続できる会社をパートナーとして選ばなければならない。南アを除くと、アフリカには会計が不透明な会社なども多くあり、信頼できるパートナーを探すには、それなりの時間が必要だ。

 アフリカでは現在、人口が急増している。さらに、一人当たりの塗料の年間消費量は現在、1キログラムにとどまっているが、欧米では一人当たり20キログラム以上使っていることを考えると、今後の経済成長に伴い、一人当たり消費量が大きく増えることは想像に難くない。アフリカには、政治の不安定さなどのリスクはあるが、10年スパンで見れば、ほぼ間違いなく大きな市場になるだろう。

 

従業員の持ち株制度も

―現地に対するCSR(企業の社会的責任)活動は。

 まず、なるべく社員の雇用を維持するよう、カンサイ・プラスコンの経営陣に働き掛けている。また、自社株を同社の社員に持たせ、会社の利益が上がれば彼らの利益も上がるようにし、モチベーション向上も図っている。そのほか、南ア政府が打ち出している「黒人の経済力強化(BEE)政策」に対応し、経営陣や社員に黒人を多く採用している。

 また、国際保健NGOの国際家族計画連盟(IPPF)に対して、当社が開発した蚊よけ加工をした塗料を提供するパートナーシップ契約を今年、締結した。彼らの傘下にあるアフリカやアジアの国々の医療施設などにこの塗料を使ってもらい、マラリアやデング熱の感染予防に役立てているが、これは当社のブランド向上にもつながっている。

  なお、ブランド強化という点では、当社は2013年に英国のサッカーチームであるマンチェスター・ユナイテッドとスポンサー契約を結んだ。世界的な彼らの知名度も生かし、アフリカをはじめ世界各地でブランド向上を進めているところだ。

 

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南アフリカの塗料の主販売場所である大型店舗「ビッグボックスストア」の様子

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南アでのショールームの様子。アフリカでは、あたかも化粧品を売るように、ショールームに塗料が並んでいる

 


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