『国際開発ジャーナル』2015年12月号掲載 連載  変わるアフリカ 変える日本企業

内戦後のアンゴラで復興支援

「最後のフロンティア」の潜在力に期待

 

連載第4回は、総合商社の丸紅(株)の取り組みを紹介する。27年間続いた内戦が終結したアンゴラでは、経済を復興から成長軌道に乗せるための産業再生に貢献している。アフリカ地域担当役員を務める山添茂代表取締役副社長に、アフリカビジネスの現状と展望を尋ねた。

 

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丸紅(株) 代表取締役副社長 山添 茂氏

 

駐在員を倍近く増加 

―アフリカビジネスの魅力と、貴社の取り組み状況は。

 アフリカは2000年代以降に高成長が始まり、最も有望な新興地域の一角を占めるようになった。国際通貨基金(IMF)の予測では、2015〜19年の5年間平均の実質GDP成長率は5.1%。世界の主要地域で新興アジアに次いで2番目に高い。

 大きな人口も魅力的だ。アフリカの人口は2030年代に中国やインドに匹敵し、やがては世界最大の人口を抱える地域になるだろう。若年層が多く、長期にわたって人口ボーナスを享受できる。 

エネルギーや金属など天然資源に恵まれているが、近年の高成長を背景に中間層も急拡大し、潜在的な消費市場としての魅力も高い。「最後のフロンティア」として世界の注目を集めている。

 丸紅も早くからこの地域のポテンシャルに着目し、各国政府が求める案件を中心に手掛け、信頼関係を築いてきた。そうして着実に培った土台を将来のビジネス拡大へとつなげるべく、最近、アフリカの取り組みを一段と強化した。

 

駐在員も増員していますね。

 丸紅は13~15年度の中期経営計画で、北米や南米、東南アジア、中国、インドなど従来から力を入れてきた地域に加え、アフリカを新たに「注力地域」に設定。14、15年度と駐在員を計18人増員し、41人体制とした。各拠点とは別に南アフリカには各営業部からの担当者7人を置き、サブサハラ・アフリカ49カ国でのビジネスの発掘に飛び回らせている。

   彼ら「サブサハラ・デスク」の拠点を南アに置いたのは、南アが空路のハブになっているからだ。アフリカでは各国間を飛び回るフライトが不便で、例えばモザンビークのマプトからタンザニアのダルエスサラームに行くにも直行便がなかったりする。ケニアも空路のハブになりつつあるが、南アに比べればまだ不十分であり、もう少し発展してほしいものだと考えている。

 15年度には、02年時点で一度閉鎖したコートジボワールにアビジャン出張所を再開した。また、モザンビークにマプト出張所も新設して幅広いビジネスチャンスを迅速に捉える体制を整えた。

 

シャツや砂糖の自国生産を

―内戦で国土が荒廃したアンゴラでは、工場の再生に取り組んでいますね。

 アンゴラ政府の地質鉱山工業省(現工業省)から09年以降3年連続で首都ルアンダ、ベンゲラ、ドンドにある旧国営繊維工場のリハビリ工事請負を受注した。受注額は3工場合計で約1,000億円に上る。

   アンゴラは内戦前、肥沃な土壌と温暖な気候を生かし、綿花、サトウキビ、コーヒーなどの栽培が盛んだった。輸出も多い農業大国だったのだ。しかし、02年まで27年間続いた内戦で農場や加工工場は破壊され、操業停止に追い込まれ、産業は軒並み衰退の一途をたどっていた。

 こうした中、当社が実施したリハビリ工事は、同国の繊維産業と農業(綿作)再興と雇用創出を目的として実施したものだった。

 初めて現地入りした時には、周囲の道路は穴だらけで、老朽工場はコウモリの巣窟になっていた。そこに最新鋭の紡績、織布、染色の設備や自家発電、排水処理設備を入れ、最新鋭の工場に蘇らせたのだ。これにより、かつては全量輸入に頼っていた繊維製品のうち、ユニフォームやシャツ、タオル、ベッドシーツ、デニム生地などを自国で生産できるようになる。これら3工場が稼動すると、約3,500人の雇用を創出できる。

 同国では法整備が不十分で、リスクは多かった。アンゴラ財務省、地質鉱山工業省との交渉にも時間がかかり、信用状(L/C)を取るのも大変だった。繊維工場リハビリの契約履行は容易でなく、現在もトラブル解決に追われる日々が続いている。また、現地はマラリア多発地域であるため、感染症予防や治安対策にも力を入れる必要がある。また、物価が高く、他のアフリカ諸国の倍くらいする。レストランの値段も高い。内戦の影響で育つべき産業が育っておらず、農業も育っていないのでレタス一つ2,000円と大変高い。

 だが、日本側の官民連携はうまく進み、国際協力銀行(JBIC)が日本企業の輸出契約の円滑な決済を支援する「バイヤーズ・クレジット」をアンゴラ向けに初めて適用するなど、支援してくれたのが大きかった。また、現地の公用語であるポルトガル語が話せるブラジル人を工場の運営に雇うなど、現地従業員の指導や人材育成の工夫もしている。駐在員は女性も含め、大奮闘している。おかげで、ルアンダ工場は13年8月に完工、ベンゲラ工場は14年9月に完工し、第3工場のドンド工場も15年12月には完工予定である。

 同国ではまた、12年に製糖・バイオエタノール工場の新設請負契約も獲得した。本工場が稼動すると、全量輸入に頼る砂糖の多くを自国で賄うことができる。かつて主要産業だった製糖業を再興することになるのだ。

 

電力など幅広く展開

―他の国々での事業展開はいかがですか。

 ナイジェリアでは、電力分野で多大な貢献をしてきた。1970年代から40年近い間、建設容量ベースで4,600MWの設計・調達・建設の実績があり、同国の既設容量の約4割を占める。電力需要は今後も拡大が続き、急速に電力民営化を推進しているため、ビジネス拡大の期待も大きい。

 資源関係では、ガーナ沖で石油の洋上生産設備の建設・運営事業に出資参画し、赤道ギニアでもLNG事業に出資参画している。

 また、南アに対しては内務省向けに生体認証技術を生かした国民IDシステムも提供している。そのほか、ガーナではトヨタ自動車の販売を展開し、エチオピアからは日本向けのコーヒー豆の輸出をするなど幅広いビジネスを手掛けている。

 

―今後のアフリカビジネスの課題は何ですか。

 以前に比べて資源価格が下がり、資源ビジネスに関しては若干の踊り場に来ている感じがある。中長期的には伸びていく分野だが、どう対応していくか考えていく必要がある。

 その一方で、アフリカにはまだまだ基礎的なインフラ整備や産業振興が必要な国も多く、相手国のニーズに合ったさまざまなプロジェクトを提案し、中長期的に取り組む必要がある。そうしてアフリカ諸国とともに発展していくのが、当社のビジネスの在るべき姿であり、社会的使命だと考えている。発電所建設、鉄道・港湾といった交通インフラ整備など丸紅グループが得意なビジネスチャンスがたくさんあるため、今後の展開に大きな期待を寄せている。

 

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リハビリ前のアンゴラの繊維工場の周辺

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リハビリ前のアンゴラの繊維工場

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リハビリで導入した機器

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工場での作業風景

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工場での作業風景

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タオルのサンプルをチェックする現地従業員たち

 


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